熱帯夜と快眠 -暑いと眠れないとは何故だ?快眠と血液循環の秘密の関係-

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 梅雨が明けてしまい、熱帯夜が始まりました。今年は梅雨といっても東京近辺はさほどまとまった降雨がなく、これから猛暑が始まるかと思うとうんざりしますね。

 昼間暑いのも大変ですが、夜暑いのも一苦労です。寝るときにクーラーをつけなければ「熱中症になるぞ」、といわれ、クーラーをつけて寝れば、「夏風邪」をひき、鼻がぐすぐす、空咳も続いたりして、あるいは朝起きた時に体も何となくだるくなる、一体どのようにして過ごせばよいのか、というのが正直、疑問に思われるところだと思います。

熱帯夜と快眠

 では、何故暑いと眠れないのでしょうか?この疑問に答えられる人はそう多くはないと思います。「暑かったら眠れないものは眠れないんだから、眠れないのは当たり前でしょ!!」と怒られそうです。もう少し掘り下げると、入眠時に暑いときには、体がどのような反応をしているから眠りにつけないのでしょうか?

 まずそれを明らかにする前に、ヒトが眠るときにどのようなことが生体内で起きているのか説明しないといけません。昼間は自律神経のうち交感神経の支配が優位にあります。交感神経は体を緊張させ、心拍数や血圧を上げ、頭の回転も速くさせます。夜間は反対に副交感神経の支配が優位になります。副交感神経は体を休めようとするため、脳を休める睡眠をもたらしますし、心臓や呼吸の働きも低下させます。

熱帯夜と快眠

 例えば、コンピューターがしばらく操作していないと画面が暗くなり、スリープモードになり省電力にしようとしますね。体も同じで、睡眠中はほとんどの体の働きは無駄な労力となるため、心臓の拍動回数(心拍数)や呼吸数は低下します。ただ、低下はしますが、しかし、心臓などは絶対に止まらないようにある程度のところで心拍数がピタッとそれ以上は絶対に落ちないようにもなっています。心臓のすごいところです。交感神経や睡眠の機能は太陽系の地球が自転していることで昼、夜の区別ができたことから、生体にも備わるようになったと考えられています。生命の神秘は宇宙のシステムとも関係しているのですね。

 さて、話がそれましたが、入眠には副交感神経の働きが重要なのはわかりました。では暑いとどうして眠れないのか?これには熱中症の回を思い出していただくとよいです。

熱帯夜と快眠

 暑いと「汗君」がでて体温を冷やすんでしたね。その汗をかくのは、「交感神経が働くから」、でした。皆さん、人前で発表するときに緊張して手に汗をかきますね。これも交感神経の働きです。交感神経が働けば、頭がさえてしまいます。また、皮膚の血流も増えて、アトピーなど慢性の皮膚疾患をもっている方などでは体がかゆくなったりします。こうしたことが「暑いと眠れない!」原因と考えられます。

熱帯夜と快眠

 では、入眠時にクーラーで冷やして、交感神経の働きを抑えれば、快眠につながるのでしょうか?クーラーをつけることでは暑さが原因となっている入眠はすんなり達成できると思います。ただつけるタイミングも重要です。お風呂でしっかり温まってから、しばらくは窓を開けるなど、クーラーをつけずに、自然な放熱により余分な体熱をとっていきましょう。汗をかくからといってクーラーで体を急激に冷やすことは生体にとっては逆効果になります。料理で調子したものを、室温でゆっくりと冷まして、味をしみこませる過程がありますね、そんなイメージです。

熱帯夜と快眠

 寝る前10-15分になったらクーラーをつけ、布団に入る準備をします。そのまま照明も暗くし、一気に寝てしまいましょう。
さて、クーラーは消して寝るのか、つけっぱなしでよいのか?ここが問題です。1-2時間のタイマーで消した場合、その後室温は上昇してきますので暑くなり、そこで睡眠が浅くなります。室温が上昇してくれば、結局は暑くて寝苦しい状態になります。
 
 しかし、気温が一番下がるのは5時ぐらいで、体温もその時間帯に一番下がります。従って、ずっとつけていれば朝方に室温は予想より低下して、体も冷えてしまうことになります。
気温・体温の日内変動を考えると、一番よいのは3時か4時ぐらいでクーラーを一旦切り、窓を開け気温に切り替える、6-7時ぐらいでクーラーを再度入れる、というのが理にかなった方法です。ただしそのために睡眠を中断して起きることになり、うまい方法ではないでしょう。
 
 何故、家電の開発会社は睡眠や日内変動に配慮したクーラーのプロトコールを作成しないのか不思議です。気温や体温は継時的に変化するものであり、同じ温度設定で済むはずがありません。その人ごとに、暑いと感じるレベルも色々です。今後通信機能を利用して地域の気温・地温データや、利用者の体温センサーなどから計算されたオートコントロールの空調がうまれる日も遠からず来ると思います。

 クーラーを夜通しつけていて気にならない方はよいとして、ずっとつけていると体が冷えてしまう、という方は4時ぐらいに消えるようなタイマー設定にしてみたらいかがでしょうか?

暑い夏を乗り切るためには、まず睡眠の質をよくすることからお勧めしたいと思います。

(循環器内科科長)

暑いときには気をつけようー熱中症(熱射病)―

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 暑いときにクーラー・空調をつける、それが当たり前の現代社会ですが、クーラーのなかった時代には、日本人は涼を楽しむという心をもち暑さをしのいできました。井戸水で冷やしたスイカ、うちわ、風鈴、すだれ、かき氷、花火、きもだめし、などと日本独特の文化の中に様々なアイテムを育んで、今も生きています。


 
 どこにでもクーラーで涼める便利な社会になりましたが、日本のよき文化が東京の街角の小道に入るとまだ脈々と受け継がれているのをみるとうれしい気持ちになります。しかしどんなに文明が発達しても、夏の暑さは人間の力でコントロールが効かないものの一つです。特に、炎天下で長時間の作業や部活動などで、じりじりと焼けるような太陽の下に体をさらしていると途端に熱中症になります。
 
 私たちの幼少の頃は日射病と言っていました。最近では学術的に熱中症、あるいは熱射病と呼ばれることが多くなりました。よくある症状はだるさ(全身倦怠感)、しびれ、頭痛、吐き気、めまい、脱力感などです。
 
 最近熱中症で問題となっているのは、都市のヒートアイランド現象です。空調でビルなど室内は冷えますが、その分熱交換されますので、外には熱が吐き出されます。樹木が少ないとアスファルトの地温はどんどん上昇します。場合によっては、猛暑の日に30分ほど外を歩いただけで熱中症になる方もいます。また、ヒートアイランド現象により真夏日・夏日・熱帯夜の日数が増加するため、熱中症による救急搬送者数や死亡者数は増加するといわれています。2015年には国内で968人もの方が亡くなっているというデータもあります。
 
 もう一つの問題は高齢化に伴うものです。熱帯夜に高齢の方が、クーラーをつけないで一晩寝て、朝になったら熱中症になっていた、という話をよく聞きます。高齢の方は喉の渇きを自覚しにくいので、体温が上昇しても、飲水行動による体内冷却がスムーズにいかないため、熱中症を発症するとされています。
 
 熱中症において、二つ重要なポイントがあります。「汗」と「体温」です。実は、汗は体温が上昇するのを防いでいます。ヒトの体は暑いと汗をかきますが、その水分が蒸発する際に気化熱を体から奪います、つまりその分だけ体を冷やす効果があるのです。汗をかくことができるうちはいいのですが、あまりたくさんの汗をかいて水分補給ができない場合、脱水になります。加えて、汗は若干の塩分も含みますので、脱水の際に水だけを補給すると低ナトリウム血症を来たし、脳の障害が起こります。昔の部活の先生が炎天下の運動のときに、「水を飲むな」と言っていた、という話をよく聞きますが、水だけを補給しないで、塩などの電解質を含んだ水を飲む、というのが正解になります。

 
 汗による体温調節がうまくいく前に、あまりに急激に体温が上がりすぎると脳の機能が障害され、意識障害や体温調節ができなくなる状態になり、死亡することがあり大変危険です。
従って、熱中症にならないようにするには、電解質を含んだ水の補給と冷やすことが重要です。また、症状が顕著であれば、医療機関に受診し、電解質を含む輸液と冷却が大変有効です。

 よくあるのが、涼しい部屋の中に長時間いてから外に出て、歩いていて程なくして発症するケースです。空調のきいた屋内にいると、体は「寒い」と感じて毛穴が閉じてしまい、外の炎天下にでても、中々汗をかいてくれません。急激に体温が上がり、汗をかく、という体温を低下させる反応が追い付かないと、やはり熱中症がおきてしまいます。

 
 発汗はもともと自律神経が制御しています。暑いところや涼しいところに出たり入ったり繰り返していると、数分ばかりの短い時間で5℃くらいの温度変化があるはずで、自律神経の調節や働き自体も不調をきたしてきます。ヒトの先祖、霊長類が誕生したのは一億年前からといいますが、その時代から考えても、元々ヒトの体は、こんな短時間に繰り返される急激な温度変化を経験したことはなかったはずです。


 このように、熱中症は都市のコンクリートジャングルの中で起こりやすくなっていますので、要注意です。炎天下に外出をするようなときにはうちわや扇子を持っていくのがいいと思います。風を自分に送ることで、体熱をとりさり、汗を早く蒸散させるので、体温の上昇を抑えることができます。例えば打ち水なども、実は科学的根拠に基づいていて先人の知恵には驚くばかりですが、そういった日本の古き良き文化がこれからも受け継がれればいいなと思います。

(循環器内科科長)