心臓の画像検査(エコー、CT、MRI)のそれぞれの違いについて


 心臓を見る検査にはエコー、CT検査、MRI検査がありますが、それぞれ長所、短所があり、病態ごとに得手・不得手があります。
 
 例えば心臓の動きを見るのには、心エコーはとても簡便で、プローベという超音波を出す棒を胸に当てればすぐに心臓がどういう状態かはわかります。ところが、心臓の動きはわかりやすいエコーですが、心臓を栄養している冠動脈や心臓の筋肉の性質はわかりにくいです。心臓の筋肉の性質をみるには、MRI検査がむいています。造影剤を使えば、心筋がダメージを受けているのかが、見た目でわかります。MRIが優れているのは冠動脈の状態をわかることもできます。しかし、MRIでは画質がやや落ちたりすることがあり、また患者さんの状態によってはきれいな冠動脈が撮影できるとは限りません。
 
 その点、冠動脈をみるのには何といってもCTが向いています。CTでは画質がよく、また最近の新型のCTではあまり条件に左右されずに、きれいに撮像できます。
 
 しかしCTでは被曝量が増えたりするため、心臓の動きの評価は難しくなります。
このように3つの心臓検査はちょうどじゃんけんの「3すくみ」のような関係になっています。検査の性格が3すくみになっているとは面白いものだと思います。

 今は、心臓を評価する項目に着目して比べてみましたが、検査の能力をざっくりと比較してみましょう。
最低必須の画像を取得する時間でいうと、冠動脈CT(1秒以内)<心エコー(数分)<心臓MRI(20分)の順番に長くなります。また薬剤や被曝など体の侵襲を考えると、一番負担が少ないのは心エコー<心臓MRI<冠動脈CTの関係になります。また一つの検査での評価可能な項目の多い順番では心臓MRI>心エコー>冠動脈CTとなります。また歴史の新しい順番でいうと心臓MRI>冠動脈CT>心エコーとなります。
 
 実際の臨床現場ではこれらを組み合わせたり、順番を考えたりして選択し、使用します。
 
 当院に来院する患者さんで、「最新の心臓MRIを撮るんだ」と意気込んでいらっしゃる方が多くおられます。ネットなどでサーチされたのかと思いますが、残念ながら、保険診療で検査を行う場合には、それなりの疾病の存在を疑う状態で、なおかつ至適な検査を医療者側がチョイスさせていただくので、ご希望に添えない場合もございます。医療費が高騰しておりますので、医療機関には適正な保険診療をすることが求められているからです。
 
 当院では他院より比較的廉価で、しかも検査内容は同様の最新式の心臓MRIドックをご提供しております。ここから誠に手前味噌になりますが、少し当院の心臓ドックのご紹介のお話しになります。

 心臓突然死を予防するにはまず心臓ドックの受診から始まります。当院の心臓ドックは特に画質と読影のqualityは高く、チームで二重、三重のチェック体制を敷いて、通常見逃すような所見でも拾っております。このため、二次検査の冠動脈CTで動脈硬化のプラーク病変の診断をされた方が少なからずおられます。このことが可能であるのは、我々の読影のチームが心臓MRIに関しては10年近くの経験があるからです。もちろん、撮像後、画像はすぐにチェックを行い、重篤な所見のある場合にはご本人様にお知らせし、当日緊急に大学病院にご紹介するなどの緊急時即応体制もとっております。
 
 心臓ドックで金額が高いほど、高度なことをやっているかと思う方がいらっしゃるのですが、そんなことはございません。ドックで使用している機械はどの医療機関もほぼ同じ機能です。ドックで行うような心臓MRIは今や珍しい検査ではなく、どこでもできるので、心臓MRIだけのドックで10万円以上もする検査ではありません。我々は多くの経験があり、MRIは普段使いしているのでこれは特別な検査だとも思っていないのです。当院ではより多くの方に新しい検査機器である心臓MRIの恩恵を受けていただきたく、適正な価格でご案内しています。
 
 医療の本質は患者さんの闘病生活・健康生活に貢献をすることです。我々の心臓画像診断チームはそれを見誤らないようにして、患者さんに還元するべく常に最新の撮像法にもトライしております。そのことについてはまた本ブログで取り上げたいと思います(循環器内科科長)。


医者は症状を聞いただけで病気がわかる?わからない?


 
 先日、患者さんから「症状を言えばすぐ病気がわかるものではないのですね」とお言葉をいただきました。
 そこで、冒頭の質問が今回のテーマです。果たして優れた医師は症状を聞いただけで病気がわかるものでしょうか?
 最近の医学教育の中でも医療面接の重要性が医師の卵である医学生に教育されています。患者―医師関係を構築していく上で、患者さんが自由に症状を中心としたお話しをする事とそれを医師が傾聴するという姿勢、これは不可欠なものになります。

 医師の診断はまず話の大枠から最も可能性のある診断群を仮説としていくつか想定(初期診断、鑑別診断)、それにあった検査方法を選択、そして診断を決定(確定診断)、というように仮説を検証する過程で構成されます。ちなみに、初期診断の際は~が疑わしいという意味でカルテに「~ s/o(~という病気が疑わしい)」と書かれます。 また可能性は低いが見逃すと問題である病気の場合には「~r/o(~という病気をルールアウト)」と書かれます

 もちろん、優れた医師は経験があるため話を聞いただけで大体の見当がつく場合が多いです。見当がつく、そういう意味ではYesです。ただし、病気の種類・性質により、確定診断に必須とされる情報が異なります。診断に必須とされる情報とは、言い換えると診察所見なのか画像なのか病理組織なのか採血なのか、あるいはそれらの複数の組み合わせなのか病気の種類・性質により異なりますので、話だけからは正確に最終確定できないことの方が多いのです。従って、確定診断という意味ではYes<<Noとなります。
 
 これを聞くと、「いや、やはり話を聞いただけでわかるはずだ」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
 病気によっては話だけでほぼ同定され得るものが心臓病にはいくつかあり、例えば代表的なものでは狭心症、心筋梗塞、心不全などが挙げられます。これらは経験のある医師は患者さんのお話しと見た目(視診)でその疾患の有無が高い確率で判定できます。「朝から急に胸が痛みだして、どんどん悪くなり痛みが強くて動けない、冷や汗もかいている」という話を聞けば、まず心筋梗塞を疑う訳です。先月のことになりますが、私は心臓CT検査をやる前に左冠動脈前下行枝近位部に有意狭窄があるだろうとスタッフに告げたことがありました。やはり心臓CTで左冠動脈前下行枝がつまっておりました。ただこういうものは100%ではなく、症例によっては例外的なことはいくらでもあります。どんなに自信があっても治療方針を決めるためには、診断は段階を踏んで慎重に行う必要があります。従ってこのような疾病でも最終的には採血、レントゲンや心電図、心臓CT、心臓カテーテルなど、検査での確認が必要となるのです。特に最近心筋梗塞は突然死の原因として注目を浴びていますが、心筋梗塞になりそうなケースの場合には心臓CTが診断には優れています。
 
 人間の体は外からみてわからない部分もあり、基本的にはブラックボックスです。医師があなたに病気がある、ない、などといくら言っても体の中の現象が全てみえている訳ではありません。医師の判断の依拠するところは知識と経験則、そして技術です。しかし、特に心筋梗塞では画像でみれば一目瞭然です。患者さんも画像でみれば、病気がある、ということを認識できます。 
 
 心筋梗塞になりそうな症例をみれば、経験のある医師は話を聞いただけでわかる上に心臓CTやカテーテル検査を行うのは、以上のように診断過程で重要である他、治療上の必要性もあります(循環器内科科長)。


鉄過剰症による心不全の画像診断 ―期待されるT2*(スター)の役割―


 鉄過剰症という状態があるのをご存知でしょうか?
 
 例えば貧血になったりすると、肉をとりましょう、鉄分を含むサプリメントを補充しましょう、あるいは鉄剤を服用しましょう、などと医師から指示されることがあると思います。

 ただ、高度の貧血になると赤血球輸血といって赤い血の輸血をすることがあります。

 多くのケースでは手術中や消化管出血などの場合で行われます。しかし定期的に赤血球輸血をしなければならない状態があります。血液をつくる機能(=造血機能)は骨髄にありますが、造血機能にダメージを与える血液の悪性腫瘍の患者さんでは輸血が慢性的に必要になることがあります。このような状態では鉄過剰症という状態になりやすいとされています。

 そもそも血液が赤いのは赤血球、ヘモグロビンが鉄分を多く含むからです。この鉄は酸素とくっつくことにより全身に酸素を運搬する働きをもっているのですが、酸素と結合した酸化鉄を多く含むため哺乳類の血液は赤くなります。

 よく鉄がさびると赤くなりますが同じ原理です。鉄のさびたにおいも血液のにおいに似ています。小学校のとき、雨の日になると階段の鉄製の手すりが嫌なにおいを発していました。鉄棒をやったときに手につくにおいも同じです。これは鉄さびのにおいですが、血液のにおいも同じようなにおいがします。

 ちなみにけがをしたときに出る血液はもちろん赤いのですが、これは静脈血のため、容器にたくさんためた状態でみると黒っぽくみえます。採血しているときに採血管にたまっているのは少し黒っぽくみえますね。逆に動脈血は真紅のような色をしており、容器にためてみても赤くみえます。我々は針を穿刺する際に色をみて動脈血か静脈血か分別することができます。
 さて、それでは貧血の方に頻回に輸血を行うと何故鉄過剰症という状態になってしまうのでしょうか?赤血球の寿命は3ヶ月ぐらいのため、時間がたつと壊され、その分鉄が残ります。残った鉄は造血の際にまた再利用され、鉄が過剰になることなく循環することになります。しかし、造血機能の病気の方で輸血をたくさん行い慢性的に継続されるような場合では、輸血などで補われた赤血球が3ヶ月程で壊れる一方で、元々の病気のため造血ができない為、鉄は使用されずに残り、体内を循環し過剰分の鉄となります。この鉄は排出される量はわずかなので体内に次第にたまっていくことになります。ただし、肉を多く摂取したからといってそれぐらいでは鉄過剰の状態にはなりません。


 この鉄は最初のうちは解毒をつかさどる肝臓でカバーしてくれます。しかしそのうち全身に沈着をし、心臓にも沈着してダメージを与えます。採血をすれば鉄がどれだけ余分にあるかわかります。しかし心臓の筋肉、心筋にどれだけ余剰にたまってきているかはわかりません。たまってきてしまえば、徐々に心臓の動きが悪くなってしまいます。その進行の性質は「不可逆的」といいますが、要するに一旦悪くなったものはなかなか元には戻りません。沈着しているとわかれば、すぐさま鉄を除去するような治療、キレート治療といいますが、その治療介入が可能となります。
 
 鉄の心筋への沈着を判定することができる心臓MRIの撮影法をT2*(スター)といいます。このT2*による撮影はどこの医療機関でもできる撮影ではありません。今回当院の技師さんの尽力によりボランティアー撮影を行い、正常範囲の至適な値が算出されました。

 輸血を長期間頻回にしなければならないような患者さんでは、心臓の状態が問題になってくる場合が予想されます。当院にご相談いただければと存じます。(循環器内科科長)


禁煙ストーリー


 外来に素晴らしい写真が飾られました。写真が趣味の技師さんがボランティアーでご自身が撮影したものを大きい印画紙にプリントし、飾ってくれました。

 さて、禁煙外来継続中です。現在喫煙されている方は2020年の東京オリンピックが始まる前に禁煙しておきましょう。アイコスも有害とされています。
 
 そんな折、お一人の女性が禁煙を達成されました。

 その方は学校の先生をしておられます。喫煙歴は20年、結構長いです。教師というのは職業規範が求められますので、先生も教え子の前では喫煙する姿をみせまいとされていたそうです。お話しを伺い、やはり学校の先生はストレスがたまるのだな、という印象を受けました。先生は今まで本気で禁煙をしようと思わなかったそうですが、40歳の誕生日を迎えたのを機に健康上のことを考慮して禁煙しようと思われた、とのことです。
 
 思い出されるのは小学校の時のおじいちゃん先生、教室でも職員室でもぷかぷか吸っていました。戦争にも行ったというその先生、恩師への気持ちは忘れがたく、後年ご自宅に伺ったときには在宅酸素療法をして自宅療養しておりました。古びたショパンの楽譜をいただいたのを覚えています。

 自分が医師になってからも、禁煙を啓発すべき多くの先輩医師が医局で堂々とぷかぷか吸っており、そんな光景が珍しくない時代でした。嫌煙の風潮・分煙化が進み喫煙者の肩身が狭くなってきたのはごく最近のことです。ベランダで肩身狭く吸っているお父さんが増えてきました。マンション・アパートなどの集合住宅では窓の外の空気がタバコのにおいで汚染されることで、新たな居住者同士の軋轢を生むことがある、との話しもあります。

 このため、当院の外来にいらっしゃる患者さんの中には、隠れて喫煙される方も多く、非喫煙者の私からみると結構なストレスに思えますが、そうまでしてでも吸いたくなります。これがニコチン中毒症の本体です。
 
 しかし、こちらの先生がすごいのは禁煙外来の治療を開始して8日目から完全禁煙に入り、その後一本も吸われず、危惧された禁断症状もなく3カ月の禁煙プログラムを見事達成されました。
 
 禁煙は3カ月のプログラム終了でおしまいではありません。それからも「脱煙」として一日一日を刻む必要があります。脱煙の日々を過ごしていき、いつの日か禁煙していることも忘れてしまう日「卒煙」が来るかもしれません。時間がかかる場合もあるかもしれませんが、ニコチン中毒症から離脱する禁煙治療の本当のゴールはそこにあります。


冬に起こりやすい病気②―感染症の他、血管への負担が原因となる病気があります―


前回:冬に起こりやすい病気①―感染症の他、血管への負担が原因となる病気があります―

 冬に起こりやすい病気②です。

寒冷刺激で心臓の冠動脈が一過性に細くなってしまう冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症が該当します。12月の記事で既にとりあげました。動脈硬化が原因で既に冠動脈がつまりかかっている状態にある労作性狭心症、心筋梗塞も、冠攣縮が誘因となり、冬に起こりやすいことが知られています。

 朝出勤時に外の冷気にふれ、歩いていると次第に胸が締め付けられるように痛くなり5-10分以上症状が継続する方は要注意です。

 冠動脈CTにより冠動脈の動脈硬化を評価することができます。冠動脈のCT撮影は施設により、被曝や診断精度が異なります。CTの被曝や造影剤の副作用を恐れる方もいますが、造影剤の禁忌事項がなく、胸部症状が著明な方はCTがお勧めされます。MRIでも冠動脈は評価できますが、血管内腔のみを画像化します。血管壁の情報は影絵のようにして知るしかありません。動脈硬化は血管壁に生じ、CTでは動脈硬化性プラークを明瞭に画像化し、空間分解能という画像の精度の指標もMRIに勝ります。

 
 冬は血圧が上がりやすいです。定期的に血圧を計測している方は、血圧が上がってきたと感じることがあると思います。ガイドラインで定めている推奨値140/90mmHgを基本の基準として、家庭での血圧測定状況、内服状況、お持ちのリスクファクターにより薬を増やすかどうかは決まってきます。血圧が上がりやすいと脳出血のリスクが上がります。脳梗塞や心筋梗塞の発症もこの血圧の上昇が一因となります。血圧の上昇は血管に負担をかけるため、目標値に達するように治療をすることが重要となります。

 血圧が上がりやすいというのは変動しやすいことと同じです。そのため冬にはヒートショック現象が起きやすくなります。脱衣場で倒れてしまった、浴槽内でお亡くなりになっていた、というのはこのヒートショックが原因である、と数年前にスポットを浴び、マスコミでもよく報じられてきました。寒い脱衣所では血圧が上がり、浴室では血管が拡張し今度は血圧が下がります。対策としては、脱衣場を温め、一方浴室内では長湯しない、半身浴にする、などにより、血圧変動が大きくなりすぎないようにします。

冬の血圧には十分注意が必要です。


冬に起こりやすい病気① ―感染症の他、血管への負担が原因となる病気があります―


 今年の冬は寒いですね。防寒対策などしっかりしておきたいところです。寒いだけではなく乾燥もしているので要注意です。

 冬に起こりやすい病気には、インフルエンザウイルスやRSウイルスによる感染症があります。いずれも冬にウイルスが流行するため感染、発症します。口や鼻から入ったウイルスは、喉や気管支などの粘膜から体内に侵入し、発熱、咳などの感冒症状を引き起こします。特に乾燥していると、インフルエンザウイルスが喉の粘膜から侵入しやすく、ウイルスにとって好ましい環境になるといわれています。既に昨年末(2017年)より小さな流行がみられています。外出時のうがい、また帰宅後も加湿器の使用などにより部屋の湿度管理を行うことをお勧めいたします。

 感染症にかかるかどうかは、流行しているかどうかだけではなく、その人の体内の免疫力の状態に依存します。例えば周囲にインフルエンザの人がいたとして、私達が感染するかしないかは、接触の度合いにも影響されますが、その人の免疫力=体力にも関係します。流行時に感染しない人がいるのはこの違いです。もちろん、ワクチンを打っているか、ということもこの違いの原因の一つになります。

 従って、ワクチンやマスクでの予防も大事なのですが、睡眠不足や過労の状態は免疫力を低下させ、その結果感染しやすくなるため、そうならないことも大事です。体力低下時の過度の飲酒も免疫力を下げることが知られています。また、治癒についても同じことがいえます。免疫の状態が悪ければ、治癒に至るのも遅れることになります。

 感染症にかかりやすいもう一つの原因として体の「冷え」が挙げられます。冷えにより体の末梢の血流が低下して、ウイルスなどの異物が侵入しても、有効に免疫細胞が機能しなくなります。「冷え」は万病の元といわれるぐらい、体の状態を落とします。血液の循環により、酸素やエネルギーを供給したり不要物の輸送をしたりしていますが、こういった機能も落ちるので、何となくだるくなったりします。その上、「冷え」により交感神経も働かされてしまうため、血圧が上がったりもします。冬に血圧が上がり、循環器系の病気をもたらすことがあります。これは次の回でご説明することにいたします。

 体が冷えないように、日ごろから保温を心がけたいものですね。特にお風呂の後は冷えやすいから要注意です。
 (冬に起こりやすい病気②へ続く)


虚血性心不全とは何か(その2)


虚血性心不全とは何か(その1)のつづきです。

 読者の皆さま、お正月はお休みになられましたでしょうか。
本年も宜しくお願い致します。

 前回、「虚血性心不全」のお話をしましたが、実はこの病名、我々の世界でもあまり使わない言葉なんです。通常「虚血性心疾患」という言い方をします。また虚血により心機能がおちた状態は「虚血性心筋症」という言い方をすることもあります。これらの言葉は元々英語から訳されたものが多く、虚血性心疾患であればIschemic heart disease、虚血性心筋症はIschemic cardiomyopathy、心不全はHeart failure、うっ血性心不全はCongestive heart failureという言い方がメジャーです。一方Ischemic heart failureという言葉は英語ではほとんど使うことがないと思います。

 では、どうして虚血性心不全という言葉を使うのでしょうか?ここからは私の類推です。
 厚労省からの指導になりますが、死亡診断書を記載する際には直接死因に、疾患の終末期の状態としての心不全は書かない、という注意書きがされています。つまり、癌であっても感染症であっても最後の死因は心臓が止まること、つまり心不全により規定されますので、全て死因は心不全になってしまいます。そうなると死因統計をとる都合上、死亡の真の原因がわからなくなるから、死亡診断書には心不全を死因としては書かないように、とされています。一方で今回の事例のように、本当に心臓が悪くて至った死亡もあります。これを区別するために原因としての「虚血性」を冠した造語が「虚血性心不全」であるのではないかと思います。実際に死因などで使用するケースが圧倒的に多いようです。

 虚血性心不全こわい、という言説が流布していますが、これは心筋梗塞にならないようにしましょう、という話しと同じです。つまり、心筋梗塞の病態はよくいわれる動脈硬化と同じ意味であり、高血圧、コレステロールの高くなる脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙、腎機能障害などがその主なリスクとして知られています。また最近では睡眠時無呼吸症候群もこのリスクになることが言われています。特に、高血圧、脂質異常症は大きなリスクになりますが、症状がないため健康診断で異常が出ても、なかなか億劫なので受診されない方も多いです。また喫煙をされる方も高リスク群に入ります。このような方は心筋梗塞、またそのなれの果てである虚血性心不全の発症には注意をされた方がよろしいです。

 一方で面倒だと思いつつも定期的な受診をして薬を服用し、コントロールされている方は少し安心です。心筋梗塞になるリスクが安全域まで下がっているはずといえます。
 
 では、心臓の冠動脈の動脈硬化の状態を知るにはどうしたらよいでしょうか?最も外来で行われる検査は、心電図や心エコー検査ですが、簡便な一方で間接的な評価になります。
 詳細に見るためには当院の得意とする冠動脈CTが一番です。当院の冠動脈CTは320列という高分解能のCTに加え、被曝も平均四分の一程に少ないことが特徴です。ただ少ないとはいっても被曝があり、造影剤という薬を使用するCTは何らかの症状などがある場合に施行されることが多いです。症状のない方は被曝がなく、造影剤を使用せずに撮影することができる心臓MRIを使ったドックが望ましく、心臓MRIでも冠動脈を十分見ることができます。
 症状のあるなしに関わらず、一度心臓の状態を知っておきたいという方は、当院循環器内科に是非ご相談ください。

循環器内科 手塚大介


虚血性心不全とは何か(その1)


 先日、プロ野球の元監督・野村克也氏の妻で、タレントの野村沙知代さんが突然死された件について、死因が「虚血性心不全」と発表され、その病名が注目を浴びています。確かに一般の方にもあまり聞き慣れない病名であると思います。
 
 虚血、つまり血液が足りない、というのは特に心臓の分野では「心筋」に血液が不足している状態を指します。心臓が動いているのは心臓の筋肉、すなわち「心筋」が収縮を繰り返しているからですが、その心筋を栄養する血液を出している冠動脈が動脈硬化により詰まってしまうことで、十分な血液が心筋にいきわたらなくなり(=虚血)、次第に心筋が壊死していきます。この状態を心筋梗塞といいます。

 心臓はポンプの働きをして全身に血液を送っていますから、心筋梗塞を起こした心臓では壊死した心筋の分だけ働きが落ち、弱いポンプの力になります。心臓の働きが落ちて、十分に全身に血液を送り出せない状態のことを心不全といいます。つまり虚血性心不全とは虚血が原因となって起こる心不全の状態のことをいうわけです。

 では、心不全とは具体的にどのような状態となるのでしょうか?
 全身に血液を送れなくなりすぐに影響が出てくるのは肺です。全身の血液は右の心臓から肺にいき、肺で酸素をもらいきれいな血液となって左の心臓にいきますので、心臓と肺は密接な関連をしています。ですから、心臓のポンプの力が弱くなって全身に送れない血液の分は肺にたまり、その結果すぐに呼吸困難になります(=うっ血性心不全)。呼吸困難の程度がひどければ、頭の働きも落ち、意識を失ったりします。


図1 心臓の構造と血液の流れ 静脈血(青矢印)は肺で酸素をもらい動脈血(ピンク矢印)になる

 虚血による心不全で怖いのは、ポンプの力が弱くなるだけではなく、心筋梗塞により心室細動という致死性不整脈が起きやすくなります。心室細動が一旦起こると、ショックと意識消失をきたし、ただちに電気ショックをかけないと、すぐに死に至る状態となります。この心室細動が突然死の原因となる最大の原因になります。よく公共機関にAED(自動体外式除細動器)など見かけることがあると思いますが、突然に発症する心室細動の人を救命するために置かれています。

 虚血性心不全が怖い病気だということがおわかりいただけたと思います。次回はさらに虚血性心不全という病気に秘められたことをお伝えします(次回に続く)。

循環器内科 手塚大介


大動脈解離 -突然死の原因疾患―


 先日私の伯父が大動脈解離で突然亡くなりました。大動脈解離といえば、つい先だってもアニメ「アンパンマン」のドキンちゃんの声優の方が亡くなったばかりです。
 突然死することも少なくない大動脈解離、この疾患は起こしやすい人がわかっています。発症のピークは70代男性が最も多く(私の伯父もそうでした)、高血圧や喫煙者など動脈硬化を起こしやすい人がリスクをもっています。特に高血圧で治療を放置している方は要注意です。また冬に起こしやすいことも知られていますが、冬には血圧が上がりますので、こうした関連があると思われます。
 では、大動脈解離とはどんな病気でしょうか?またどうして突然死してしまうのでしょうか?

 まず、解離というと聞きなれない言葉ですが、この疾患では血管(大動脈)の壁が裂けて、スペースができてしまい、そこを血管内腔のように血液が流れるようになってしまいます。本当の内腔(真腔)から、血管壁にあいたスペース(偽腔)に流れ込むところと、剥がれた部分が終わって元の真腔へ戻る部分ができます。あたかも川の流れが暴風雨によって、もう一つ別のところに流れができて、二つの川の流れになるようなイメージです。
 なお、ちなみに大動脈解離の親戚ともいえる大動脈破裂では、動脈が本当に裂けてしまうので、血管の外にどんどん血液がでてしまい、こちらも突然死の原因になります。

 上の図だけをみると、大動脈解離では血液は真腔に戻ってきてくれるのですぐに重篤な状態にならないようにみえます。しかし、偽腔の部分では血管が裂けているので、大動脈としての働き、つまり血液を送り出す機能が著しく落ちているため、仮にその本幹から横に分枝して派生する動脈があると、そこへは血液を送り出すことが難しくなります。上の図では動脈(b)は正常部分から分枝しますので影響はありませんが、(a)の血管では血管壁が裂けて脆弱した部分から分枝しますので、血流は低下します。つまり、この疾患でポイントなのは、解離がどこにできるかで重症度が全く違ってくるということです。

 一番危険なのは心臓から出てくる上行大動脈、という部分にできたときです。
 上行大動脈の根本には、心臓の筋肉を栄養する冠動脈の入り口があります。解離がこの部分を巻き込んでしまうと、途端に冠動脈の血流が低下して、心筋は虚血になり機能不全に陥ります。これは狭心症を急に起こしたのと同じような状態になります。さらにこの裂け目が心臓まで連続してしまうと、心臓の外側に血液がたまって心臓自体を圧迫して心臓が拍動できなくなってしまいます(心タンポナーデ)。徐々に心タンポナーデを起こすような状態も他にありますが、大動脈解離の場合は血管が裂けると血管の圧力や血液量が多いため、急速に心臓の周囲に貯留しタンポナーデになって、ショックを起こし、突然死を招来します。

 特に、急に発症した今まで感じたことのないような背部痛は、大動脈解離のサインとして知られています。大動脈解離の診断のゴールドスタンダードは造影剤を使用した胸のCTです。CTを撮影すると大動脈の断面が三日月のように見えて、真腔と偽腔がはっきり分かれているのがわかります。

 日本循環器学会ガイドラインによると、6割の方は病院に搬送前に亡くなられている、というデータがあります。冗談でピンコロリがいい、なんていう方も多いですが、しかし一方で突然の不幸な転帰により、周囲の方の深い悲しみとなったり、亡くなられた方の所持する物の処理が大変だ、という話も伺っています。

 今回は、大動脈解離について取り上げました。怖い疾患ですが、動脈硬化と深く関連する疾患であるため、予防するためには普段の生活習慣の見直しや早期発見のための健康診断が鍵となります。

循環器内科 手塚大介


冬に起きる心臓の症状について


 寒くなり、知らず知らずのうちに胸の症状が気になりだしてご来院される方が多くなっています。胸痛、息切れ、心臓がどきどきする動悸(どうき)症状、この三つは心臓病を疑う代表的な症状ですが、冬場にも多くみられることが知られています。

 寒いとそれだけで自律神経に影響を与えます。特に、朝の外出時には交感神経の活動が強まり、血管を収縮し体熱を外に放散しないようにします。冬に血圧が上がってくるのはこの交感神経の働きのためです。また寒冷状態が心臓の筋肉をうるおす冠動脈に刺激し、朝の外出時に狭心症を起こすことも比較的多くあります。このタイプの狭心症は医学用語で使うような難しい漢字・言葉が入りますが、冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症といわれます。攣縮(れんしゅく)とはけいれんして収縮することを意味します。患者さんをみていますと、胸痛とともに胸がどきどきするような動悸症状を伴うことも多いようです。比較的若い患者さんにも起こり夜の安静時などにも多くみられます。

 この冠攣縮性狭心症がいったん起こると10-15分と比較的長く症状が続きます。悪いことに、冠攣縮により冠動脈が収縮した状態が続くと、心臓の筋肉にいく血流が低下し、心室細動のような致死性の不整脈が起こり、突然死する方がいます。

 冠攣縮の刺激となるのは寒さだけではありません。12月は師走といいますが、本当に忙しくなります。あいさつまわりや年内に終わらずべき仕事のシメ、夜の残業、忘年会の酒席、それから年末年始の準備などやらなければならないことがたくさんあります。
こうした機会に経験することが多いストレス、睡眠不足、疲労、過度の飲酒、また喫煙者では喫煙、その全てが肝攣縮性狭心症の発作の誘因になるのです。

 冠攣縮性狭心症は薬が効くタイプの狭心症です。主に冠動脈を拡張し広げるような薬を使用しますが、適切な投薬により発作は抑制できます。極まれに難治性の方では複数の投薬が必要となることがありますが、たいていはぴたっと効くのが特徴で、嘘のように発作がなくなるのもその特徴の一つです。

 症状を自覚している人は体から出される警告サインを正常に認識していると思ってよいと思います。困る場合は、時に働く人にとっては、仕事の忙しさに夢中になっていると、症状がでても「気のせい」「仕事が一段落しないと病院に行けない」などと思ってしまい、受診が遅れることです。

 もちろん、胸の症状は狭心症からくるものだけではありません。心身のストレス、呼吸器疾患、睡眠不足だけでも、息切れ、動悸などの症状が強くなる場合があります。
 12月に入り、空気が乾燥し寒くなっており、徐々に風邪にかかる人も増えているようです。忙しいこの時期だからこそ、睡眠をしっかりとるなどして体調管理に留意して、よい年末・年始を迎えたいですね。

AIC八重洲クリニック 循環器内科 手塚