循環器内科は、心臓と血管(動脈と静脈)の疾患を専門に診療する内科です。

暑いときには気をつけようー熱中症(熱射病)―

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 暑いときにクーラー・空調をつける、それが当たり前の現代社会ですが、クーラーのなかった時代には、日本人は涼を楽しむという心をもち暑さをしのいできました。井戸水で冷やしたスイカ、うちわ、風鈴、すだれ、かき氷、花火、きもだめし、などと日本独特の文化の中に様々なアイテムを育んで、今も生きています。


 
 どこにでもクーラーで涼める便利な社会になりましたが、日本のよき文化が東京の街角の小道に入るとまだ脈々と受け継がれているのをみるとうれしい気持ちになります。しかしどんなに文明が発達しても、夏の暑さは人間の力でコントロールが効かないものの一つです。特に、炎天下で長時間の作業や部活動などで、じりじりと焼けるような太陽の下に体をさらしていると途端に熱中症になります。
 
 私たちの幼少の頃は日射病と言っていました。最近では学術的に熱中症、あるいは熱射病と呼ばれることが多くなりました。よくある症状はだるさ(全身倦怠感)、しびれ、頭痛、吐き気、めまい、脱力感などです。
 
 最近熱中症で問題となっているのは、都市のヒートアイランド現象です。空調でビルなど室内は冷えますが、その分熱交換されますので、外には熱が吐き出されます。樹木が少ないとアスファルトの地温はどんどん上昇します。場合によっては、猛暑の日に30分ほど外を歩いただけで熱中症になる方もいます。また、ヒートアイランド現象により真夏日・夏日・熱帯夜の日数が増加するため、熱中症による救急搬送者数や死亡者数は増加するといわれています。2015年には国内で968人もの方が亡くなっているというデータもあります。
 
 もう一つの問題は高齢化に伴うものです。熱帯夜に高齢の方が、クーラーをつけないで一晩寝て、朝になったら熱中症になっていた、という話をよく聞きます。高齢の方は喉の渇きを自覚しにくいので、体温が上昇しても、飲水行動による体内冷却がスムーズにいかないため、熱中症を発症するとされています。
 
 熱中症において、二つ重要なポイントがあります。「汗」と「体温」です。実は、汗は体温が上昇するのを防いでいます。ヒトの体は暑いと汗をかきますが、その水分が蒸発する際に気化熱を体から奪います、つまりその分だけ体を冷やす効果があるのです。汗をかくことができるうちはいいのですが、あまりたくさんの汗をかいて水分補給ができない場合、脱水になります。加えて、汗は若干の塩分も含みますので、脱水の際に水だけを補給すると低ナトリウム血症を来たし、脳の障害が起こります。昔の部活の先生が炎天下の運動のときに、「水を飲むな」と言っていた、という話をよく聞きますが、水だけを補給しないで、塩などの電解質を含んだ水を飲む、というのが正解になります。

 
 汗による体温調節がうまくいく前に、あまりに急激に体温が上がりすぎると脳の機能が障害され、意識障害や体温調節ができなくなる状態になり、死亡することがあり大変危険です。
従って、熱中症にならないようにするには、電解質を含んだ水の補給と冷やすことが重要です。また、症状が顕著であれば、医療機関に受診し、電解質を含む輸液と冷却が大変有効です。

 よくあるのが、涼しい部屋の中に長時間いてから外に出て、歩いていて程なくして発症するケースです。空調のきいた屋内にいると、体は「寒い」と感じて毛穴が閉じてしまい、外の炎天下にでても、中々汗をかいてくれません。急激に体温が上がり、汗をかく、という体温を低下させる反応が追い付かないと、やはり熱中症がおきてしまいます。

 
 発汗はもともと自律神経が制御しています。暑いところや涼しいところに出たり入ったり繰り返していると、数分ばかりの短い時間で5℃くらいの温度変化があるはずで、自律神経の調節や働き自体も不調をきたしてきます。ヒトの先祖、霊長類が誕生したのは一億年前からといいますが、その時代から考えても、元々ヒトの体は、こんな短時間に繰り返される急激な温度変化を経験したことはなかったはずです。


 このように、熱中症は都市のコンクリートジャングルの中で起こりやすくなっていますので、要注意です。炎天下に外出をするようなときにはうちわや扇子を持っていくのがいいと思います。風を自分に送ることで、体熱をとりさり、汗を早く蒸散させるので、体温の上昇を抑えることができます。例えば打ち水なども、実は科学的根拠に基づいていて先人の知恵には驚くばかりですが、そういった日本の古き良き文化がこれからも受け継がれればいいなと思います。

(循環器内科科長)
 

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