医者は症状を聞いただけで病気がわかる?わからない?


 
 先日、患者さんから「症状を言えばすぐ病気がわかるものではないのですね」とお言葉をいただきました。
 そこで、冒頭の質問が今回のテーマです。果たして優れた医師は症状を聞いただけで病気がわかるものでしょうか?
 最近の医学教育の中でも医療面接の重要性が医師の卵である医学生に教育されています。患者―医師関係を構築していく上で、患者さんが自由に症状を中心としたお話しをする事とそれを医師が傾聴するという姿勢、これは不可欠なものになります。

 医師の診断はまず話の大枠から最も可能性のある診断群を仮説としていくつか想定(初期診断、鑑別診断)、それにあった検査方法を選択、そして診断を決定(確定診断)、というように仮説を検証する過程で構成されます。ちなみに、初期診断の際は~が疑わしいという意味でカルテに「~ s/o(~という病気が疑わしい)」と書かれます。 また可能性は低いが見逃すと問題である病気の場合には「~r/o(~という病気をルールアウト)」と書かれます

 もちろん、優れた医師は経験があるため話を聞いただけで大体の見当がつく場合が多いです。見当がつく、そういう意味ではYesです。ただし、病気の種類・性質により、確定診断に必須とされる情報が異なります。診断に必須とされる情報とは、言い換えると診察所見なのか画像なのか病理組織なのか採血なのか、あるいはそれらの複数の組み合わせなのか病気の種類・性質により異なりますので、話だけからは正確に最終確定できないことの方が多いのです。従って、確定診断という意味ではYes<<Noとなります。
 
 これを聞くと、「いや、やはり話を聞いただけでわかるはずだ」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
 病気によっては話だけでほぼ同定され得るものが心臓病にはいくつかあり、例えば代表的なものでは狭心症、心筋梗塞、心不全などが挙げられます。これらは経験のある医師は患者さんのお話しと見た目(視診)でその疾患の有無が高い確率で判定できます。「朝から急に胸が痛みだして、どんどん悪くなり痛みが強くて動けない、冷や汗もかいている」という話を聞けば、まず心筋梗塞を疑う訳です。先月のことになりますが、私は心臓CT検査をやる前に左冠動脈前下行枝近位部に有意狭窄があるだろうとスタッフに告げたことがありました。やはり心臓CTで左冠動脈前下行枝がつまっておりました。ただこういうものは100%ではなく、症例によっては例外的なことはいくらでもあります。どんなに自信があっても治療方針を決めるためには、診断は段階を踏んで慎重に行う必要があります。従ってこのような疾病でも最終的には採血、レントゲンや心電図、心臓CT、心臓カテーテルなど、検査での確認が必要となるのです。特に最近心筋梗塞は突然死の原因として注目を浴びていますが、心筋梗塞になりそうなケースの場合には心臓CTが診断には優れています。
 
 人間の体は外からみてわからない部分もあり、基本的にはブラックボックスです。医師があなたに病気がある、ない、などといくら言っても体の中の現象が全てみえている訳ではありません。医師の判断の依拠するところは知識と経験則、そして技術です。しかし、特に心筋梗塞では画像でみれば一目瞭然です。患者さんも画像でみれば、病気がある、ということを認識できます。 
 
 心筋梗塞になりそうな症例をみれば、経験のある医師は話を聞いただけでわかる上に心臓CTやカテーテル検査を行うのは、以上のように診断過程で重要である他、治療上の必要性もあります(循環器内科科長)。